第1回 パーキンソン病

中脳~大脳間のドーパミンのやり取りがなんらかの原因によって障害されることによって起こる疾患。いまだ原因が解明されていない疾患で、医療保険・介護保険ともに特定疾病に指定されている。
イギリスの医師パーキンソンが19世紀に初めて報告したのでこの名で呼ばれるようになった。
英語で『Parkinson’s Disease 』、略して『PD』とカルテに記載されていることもある。

パーキンソン病患者(19世紀の写真)
パーキンソン病の四大徴候
  1. 安静時振戦…………安静にしている時に手が震える。丸薬まるめ運動。
  2. 無動・寡動…………動きが全くない。少ない。仮面様顔貌。
  3. 筋強剛(筋固縮)…筋肉が固くなる。歯車様固縮。鉛管様固縮。
  4. 姿勢反射障害………すくみ足。小刻み歩行。突進歩行。前傾姿勢。

他にも、起立性低血圧、構音障害、小字症、うつ、認知症、便秘などの症状がみられることがある。

また類似疾患が多くあり(進行性核上性麻痺、レビー小体型認知症など)、パーキンソン病によく似たパーキンソン症状を呈する。それらとパーキンソン病を総称して、パーキンソン症候群(パーキンソニズム)と呼ぶ。より一般的にはパーキンソン病以外の類似疾患がパーキンソン症候群と呼ばれている。

ヤール分類(ホーン・ヤール分類:Hoehn and Yahr Scale )
ステージパーキンソン症状
I軽度(一側性)
--- 日常生活に介助を必要としない
II軽度(両側性)
--- 日常生活に不便を感じる
III中等度(姿勢反射障害あり)
--- 日常生活はサポートありで自活できる
IV中等度(高度なパーキンソン症状)
--- 日常生活に一部介助が必要。立位保持や歩行はなんとか可能
V重度。車椅子上あるいは寝たきりの生活
--- 生活全般に介助が必要

◎ ウェアリング・オフ(すりきれ)現象
パーキンソン病の治療薬(L-ドパ、レボドパなど)がだんだんと効かなくなってくる現象。

◎ オンオフ現象
薬が効いている時(オン)と効いていない時(オフ)がみられる現象。ウェアリング・オフ現象の進行の結果、薬が効いている時間が短くなり、オフの状態が現れてくると考えられている。こまめな服薬確認と動作観察・状態観察が重要。

◎ パーキンソン病と低血圧症状
ドーパミンに血圧を上昇する効果があるため、このやりとりが減少するパーキンソン病は低血圧を起こしやすい。またパーキンソン治療薬であるレボドパに血圧を下げる働きがあるため、この服用によって血圧が下がることがある。

◎ 介助
すくみ足や突進歩行によって、歩行開始時・方向転換時の転倒リスクが高い
背すじを伸ばしてもらい、顔を上げてもらうようにする。体重心を踵のほうに持っていくことで足の振り出しが行いやすくなる。「背すじを伸ばしましょう」「顔を上げましょう」等の声かけを行ってから歩行を開始する。これを歩行中に実施すると、一旦立ち止まってから背すじを伸ばすといったことが観察されることがある。これは二重課題の遂行に障害があるかもしれないということ。転倒リスクを高めている声かけの仕方なので、声かけは可能なかぎり実施前に行うようにする。
また足元を見てもらっての歩行は体が前のめりになりやすく、すくみ足の原因の一つになるので避けるようにする。ただし場合によってはこれで足が振り出せることもある。

また、移動中に目標物に近づくと途端に足がすくんでしまい、体だけが前に出て転倒しそうになるといったこともよく起こる。これは移乗動作に入る際に、歩行動作を無意識下に下ろそうとして足がすくんでいるのだと考えられる。
このような場合、介助者は利用者様の前方に立って目標物を見えなくすると、すくみ足が出現せず、比較的容易に目標物まで到達できる。目標物を伝えず、両手引きで歩いていき、目標物の近くまで移動したら、声掛けして支持物を把持してもらい、移乗介助へと移っていく。ただし、これは移動の安全化を図っているもので、ADLの自立とは別物。
移乗動作の際は、必ず何かを持ってもらい、介助者は体幹を支えるようにする。体幹筋の筋力低下と姿勢反射障害が原因で、どちらかに身体が傾くと、止まらなくなってそのまま倒れ込んでしまうことがある。これは椅子の手すりを持って前かがみに方向転換しながら座る際によく起こる。このような場合、椅子の前で前腕支持で体幹をしっかりと支えてその場で方向転換してから座ってもらうと良い(上の3番目の写真)。

◎ 運動療法
『長期的な運動習慣はパーキンソン病の進行を遅らせる』という研究成果が報告されているので2)、これを伝えて運動へのモチベーションを高めるようにする。

1.視覚刺激
床にビニールテープなどで線を引くと、すくみ足が改善することがある。これは大脳の視覚野からの情報による動作命令が、姿勢反射等に関係なく筋肉に直接届くためだと考えられる。
また、足がすくんで動けなくとも、またぎ動作や段差昇降の時は足が出るといったことがよく起こる。これも同様の理由が原因と考えられる。床にある線や敷居のふち等を見てもらい、またいでもらうよう指示すると、すくみ足が改善することがある。介助や運動療法に利用するが、またぎ動作を足の振り出しに転用するのは、ADL自立の観点からは相応しくなく、転倒リスクも上がるのて、最終手段とするようにする。

2.聴覚刺激
「1、2、1、2」という声かけや、メトロノームのようなリズム感のある音源があると動作がしやするなることがある。これも聴覚からの動作命令が筋肉に直接届くためだと考えられる。介助や運動療法に利用する。

3.マシントレーニングへの適用

ツイストリハブ

パーキンソン病では筋固縮が原因で円背姿勢が増悪し、肩こりや腰痛症の原因となってしまう。良姿勢を維持するため、腰をひねる動作を取り入れると脊椎の並び(アライメント)が改善され、筋固縮の改善にも役立つ。
ツイストリハブを低負荷で実施し(0~10kg程度)、体幹を正中位に保ってゆっくり大きく動かしてもらうようにする。

ウォータエルゴ(上肢)

肩こりの改善や体幹筋の強化またはリラクゼーションに役立つ。
低負荷(負荷0~1)で実施し、1~2分程度で実施する。その際、体幹を固定して手だけを動かすように指示する。そのようにできるまで負荷を下げるようにする。

エクステンション・カール

円背姿勢、前傾姿勢での姿勢保持は膝関節を常に屈曲位におくため、膝関節の拘縮を起こす原因となりやすい。
カール(膝屈曲の筋トレ)で負荷を20~40kg程度入れ、30秒〜2分程度のストレッチを実施する4)5)6)。横のレバーで角度固定するより、空気圧での操作の方が膝への負担が少ない。

4.レッドコードエクササイズへの適用
視覚的な修正が効果的なので、「正面の鏡を見て、背すじを伸ばしましょう」等の声かけを行う。背もたれからは必ず背中を離してもらい、脊柱起立筋群に抗重力運動をさせる7)。またパーキンソン病はリズム感を失う疾患でもあるので、声かけはリズム感を持たせるように心掛ける8)(その人のペースに合わせた足踏み運動などが効果的)。

姿勢反射の誘発

パーキンソン病では姿勢反射が障害されるとあるので、この改善を目指した練習が重要と考えられる。
手を前後左右どちらかに動かすと体重心が変化することによって姿勢反射が誘発されるので(体幹筋および下肢筋が無意識のうちに姿勢を保持しようとする9))、この練習となりうる。

立ち直り反応の誘発

姿勢反射は脊髄~中脳が中枢だが、これに対して、立ち直り反応の誘発は情報が大脳皮質まで及ぶ。「体が傾いている」「これ以上いくと危ない」と思わせると『大脳皮質で知覚・認識されている』ということなので、ここまでいくように足首から大きく動かしてもらう。
転倒リスクがあるので座位での実施をまず考えるが、立位で足首からの動きを出した方が効果的。この際、頭位はかならず垂直に保つようにする(前庭感覚ではなく体性感覚で体の傾きを感じてもらうため)。

ステップ反応(前方)

「危ない」と思ったら無意識のうちに足が出てしまうのが『ステップ反応』もしくは『ステッピング反応』と呼ばれるもの。
実施する際には転倒に十分に注意する。

ステップ反応(後方)

パーキンソン病の方はよく前方転倒するが、じつは後方への転倒もよく起こる。姿勢反射障害が原因と考えられるが、円背姿勢の常態化で足を後ろに振り出すのが不得意になっている等の理由もありえる。
前方ステップを実施したら、後方ステップも実施してみる。もちろん転倒リスクがさらに高くなるので、十分な配慮を行う。

以上です。おつかれさまでした。

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《 参考文献 》
1) 池田誠著,細田多穂・柳澤健 編:理学療法ハンドブック 改訂第4版,第1巻 理学療法の基礎と評価,協同医書出版社,東京,2010,pp.1170-1185
2) 月田和人・坂巻春日・高橋良輔:パーキンソン病における運動習慣の長期効果を確認,Neurology,京都大学,2022
3) 田村俊世:高齢者の健康維持のための運動負荷法,BME 10巻 5号,J-Stage,1996,pp.24-29
4) 中村雅俊・池添冬芽・西下智・梅原潤・市橋則明:スタティックストレッチングが腓腹筋腱複合体の筋力及びスティフネスに及ぼす影響の検討,体力科学 66巻 第2号,東京,2017,pp.163-168
5) 上野真志保・廣瀬浩昭:ハムストリングスに対するスタティック・トレーニング中のSLR股関節角度変化, 関西理学療法 第1巻, 牧病院 理学療法科, 大阪市, 2001, pp43-46
6) 市橋則明:運動療法学 第2版, ストレッチングのエビデンス,文光堂,東京,2014, pp196-201
7) 佐久間香・池添冬芽・小竹里佳・畑中めぐみ・沖西正圭・太田恵・坪山直生・市橋則明:パーキンソン病患者および健常中高齢者における体幹・下肢筋の筋萎縮の違い,第45回日本理学療法学術大会,J-Stage,2010
8) パーキンソン病 理学療法診療ガイドライン
9) 神保松雄著,細田多穂・柳澤健 編:理学療法ハンドブック 改訂第4版,第1巻 理学療法の基礎と評価,協同医書出版社,東京,2010,pp.229-253

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