第3回 姿勢観察からの移動介助

歩行は全身運動であり、健康には散歩が一番と言われている。どこか筋肉や関節に異常があると歩容(歩き方)は崩れ、痛みが出現しやすくなり、長距離歩行が難しくなってくる。長距離歩行が難しくなると全身の筋力低下を起こしやすく、全身の筋力低下を起こすとさらに長距離歩行が難しくなり、最悪、廃用症候群の端緒となることもある。
自立支援を目指した移動介助は、その人が歩くのに必要な最低限の介助にとどめ、ADL(日常生活動作)を拡大させるものになるよう心掛ける。

デイサービスでは評価するための時間を割くことが難しいが、普段の動作を観察しているとその人の弱点が見えることも多いので、まず姿勢観察や動作観察からその人の問題点を見抜く観察眼を持つようにする。それを移動介助などに役立てていく。

今回は姿勢観察からの介助方法を考える。
その人の姿勢をみて、介助者の立ち位置や介助方法を決める。さらに動作観察を行うことで修正を加えていく。

◎ 介助者の立ち位置

通常(横に付く)
後方重心の場合(斜め後ろ)
すくみ足等がみられる場合(後方から前方への重心変移を制動)
歩行自体が困難な方(前腕支持で体幹を固定)

介助者は患側につくのが基本。麻痺のある方は麻痺のあるほう、人工骨頭置換術後などの場合はその術側が患側になる。杖などの補助具を持っている場合は、その反対側につく。
立ち位置については、後方重心であれば横か斜め後ろ、前方重心であれば横か前につく。後方につく場合は、その方の足とからまないように注意する。前方につく場合は、自身は後ろ歩きをすることになるので、動線の先にある障害物や自身の転倒に十分に注意する。

◎ 介助方法

腋窩介助
前腕支持
両手引き
体幹保持

見守り → 軽く脇を抱える → 腋窩介助 → 前腕支持 → 両手引き → 体幹保持、の順で介助量が多くなる。必要以上の介助をしないように心がけ、可能ならひとつ軽い介助方法にもっていってADLの改善を図るようにする。杖や歩行車の使用も効果的。本人希望や必要性を考慮して、適切な補助具が用意できれば自立レベルにも到達しうる。

骨盤支持

骨盤動揺のみられる方には骨盤を支える介助の仕方も効果的。可能なら骨盤の動きを出すように介助する。
体幹動揺のみられる方には骨盤支持は有効でないこともある。不随意運動の出現などで体幹動揺が抑えられないことがあるため。動揺の度合いに応じて前腕支持か両手引きを行うようにする。

◎ 姿勢観察の実際

座位姿勢が横に傾く

側弯症などが原因であることもあるが、体幹筋の筋力低下があるとどちらかに傾いて自家筋力では修正できなくなる。麻痺のある方は患側に傾くことが多い。

パーキンソン病などで姿勢反射が起きないと体幹筋力があっても姿勢が傾きやすい。

姿勢が傾いているのを見つけたら、その都度修正するようにする。修正できない場合は、脇に物をはさむ、肘置きにタオルなどを巻いてカサ上げする等の対応を行う。
 
移動介助は体幹筋の筋力低下があるとみなして、しっかりと介助につくようにする。体が倒れやすい方につくのが基本。

骨盤の前滑り(仙骨座り)

腰を前に出して座っている状態。長時間座位での疲労や、骨盤後傾位の人によく起こる。筋力的には体幹筋の筋力低下をまず第一に考える(もちろん他の理由も考えられる。関節ROM制限、腸腰筋の筋力低下または疲労など)。
長時間の仙骨座りは腰痛や尾てい骨の痛みの原因になるので、折を見てお尻を椅子の背もたれに付けるよう修正する。

防御性収縮による姿勢の崩れ

痛みなどで荷重がしっかりと行えないと、そこの痛みを回避するための姿勢のねじれが発生する。妙に腰の引けた姿勢を取っている、体がねじれている、歩いていてすぐに立ち止まってしまう、など。図は疼痛性跛行の様子3)

痛みの部位を聞き、脇を抱える等の免荷で痛みの軽減を図る。痛みが強く、移動中に立ち止まってしまうような場合は痛みが強いという事なので、車椅子移動に切り替える。

筋緊張亢進による姿勢の崩れ

麻痺のある方では、患側に体重が乗ると患側肢の筋緊張が高まって姿勢が崩れることがある。麻痺がなくても良姿勢の保持が行えないと、片方の筋緊張が高くなり、姿勢が崩れることがある。
まず足底接地をしっかりと行い、座面もしっかりと整えることで、良姿勢を保持させる。筋緊張が高まらないようにする。

移動中は筋緊張異常でふらつきが生じやすいので、必ず介助につくようにする。

骨盤後傾位

重心が後方に移動した場合、後方転倒のリスクが高まる。骨盤後傾位になると足を後ろに振るのが難しくなり、歩幅が狭くなる。骨盤の動きも悪くなるので、バランス能力が低下しがちになり、足を開いて歩く(ワイドベース歩行)も見られるようになる4)

原因はさまざまで、リハビリでは原因を見抜く必要がある。
それに伴って介助する方法も変わる。

骨盤を前後に動かす筋肉はこのようなものがある。脊柱起立筋は骨盤を前傾させるのに作用するので、脊柱起立筋群の賦活(活性化)を行うと骨盤後傾位の修正が図れる。「背すじを伸ばして」「前を見ましょう」等の声かけが効果的。

またハムストリングスの筋短縮でも骨盤後傾位は発生するし、足首が硬くて後方重心になっている場合も骨盤後傾位を取るようになる。全身を見ていく必要がある。

円背姿勢

一般的に『猫背』と言われる状態。高齢になるとなりやすいが、世の中には生来猫背である人もいる。高身長で体幹筋の弱い人がなりやすい。高齢者の場合は胸椎部の前傾(後弯)が増強して円背姿勢になる。原因は加齢よるもの。圧迫骨折の繰り返しで起こることもある。
骨の変形によるものはリハビリでは修正が難しい。代替方法を考えるようにする。通常は独歩可能か、杖等の支持物があれば問題なく行動できる。

いずれの姿勢変容が起きても重心位置が変化し、他の姿勢変容が起こる。たとえば、腰椎圧迫骨折で腰椎前弯の減少が起こると円背姿勢が増強し、頭頚部が前方突出し、骨盤は後傾位を取って重心位置を中央に戻す、など。
通常は横について軽く脇を抱え、前後左右の重心移動を制動する程度で問題ないことが多い。

脊柱起立筋の筋力低下

筋力低下を起こした部分は拮抗筋(反対の動きをする筋肉)の筋力に負けて伸ばされる傾向があるので、姿勢観察の参考にする。
脊柱起立筋の筋力低下はパーキンソン病でよく見られる5)。これ単体では独歩可能なことも多いが、パーキンソン病では歩行開始時、方向転換時の転倒に注意する。症状が軽い場合は、横につく程度で問題ない。

腹筋の筋力低下

帝王切開などで腹筋が筋力低下を起こすと脊柱起立筋で身体を支えるようになる。脊柱起立筋は骨盤を前傾させる方に作用するので、おしりを突き出した座位・立位姿勢を取るようになる6)。これもこれ単体では独歩可能なことが多いが、反り腰になっているので腰痛症や腰椎すべり症の予備群。

前方への重心偏移を頭頚部の伸展で修正しがちなので、頸肩腕症候群やストレートネックになることもある。

体幹筋の筋力低下

腹筋の筋力低下に脊柱起立筋の筋力低下が加わると体幹を筋肉で支えきれなくなり、背骨で体幹を支えるようになる。後方重心が特徴的な姿勢となる。後方転倒のリスクが高くなるが、体幹筋の筋力低下であるので立位保持時・歩行時のふらつきが顕著になる。体幹筋力で身体が支えきれていないという意味なので、かならず介助につくようにする。

ストレートネック

頸椎の弓なりな前傾がなくなってしまう状態。交通事故後のむちうち症などでみられる。これも生来ストレートネックである人がおり、普段から背すじをピンと伸ばして歩くさまが見受けられる。脊椎の弓なりなS字カーブによるクッション性が損なわれているので、腰に負担が来やすく、腰痛持ちになっていることが多い。また後方重心になりがちで、後方転倒のリスクが上がる。
頸肩腕症候群になっていることも多く、手足のしびれや痛みの有無を確認し、介助に付く必要があるかどうか判断していく。


腰椎圧迫骨折
椎間板ヘルニア

腰椎圧迫骨折・椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症

腰痛持ちの方は圧迫骨折や椎間板ヘルニアのリスクが高くなる。ヘルニアが軽度だったり、別の病変で神経圧迫が起きているのが脊柱菅狭窄症である。腰椎圧迫骨折では前かがみになると痛みが強くなり脊柱管狭窄症では前かがみになると神経の圧迫が取れてしびれや痛みが和らぐ傾向がある。
脊柱菅狭窄症の方は前かがみになって歩く様がよく観察される。


腰椎すべり症
腰椎分離症

腰椎すべり症・腰椎分離症

腰椎すべり症は椎体の位置がずれるもの。腰椎分離すべり症は椎体と椎弓が分離してずれるもの。併発した場合は『分離すべり症』と呼ばれる。
いずれも後ろにのけぞるとしびれや痛みが強くなるので、前かがみになって歩くさまが観察される。

◎ 運動療法

運動は姿勢を修正するものを目指したものになる。体幹筋が強化されると姿勢保持は容易になるが、動作筋ばかりを鍛えてしまうと、動作筋の多くは関節運動に対して平行な動きを取らないため、姿勢を様々な方向にねじれさせてしまい、腰痛症などをさらに悪化させる恐れがある。それよりも体幹インナーマッスルの強化を目指したほうが効果があると考えられる。
インナーマッスルは関節を固定し、正常な関節運動を補佐する役割がある。脊椎周囲筋(多裂筋・回旋筋・棘筋など)は脊椎を固定して、脊椎の自然な弓なりを維持する働きもある。インナーマッスルは関節角度5°程度が最大筋力が発揮できる位置と言われており、その位置で高負荷をかける。10秒保持で高負荷(等尺性収縮)をかけていく7)が、難しい場合は数回繰り返して10秒以上になるようにする。

・マシントレーニングへの適用

腹圧強化練習

高負荷でツイストリハブを操作し、端で止めると腹筋力が強く要求される。腹圧上昇の為の筋トレになる。腹圧が高いと体幹の固定性が向上し、ふらつきの軽減にも役立つ。
20~40㎏の負荷での実施を目指すが、高齢者は10㎏でも止められない事が多い。合計で10秒以上になるよう調整する。

体幹回旋インナーマッスルの強化

上の高負荷によるものでもインナーマッスルは強化されうるが、動作筋によるねじれが発生し、腰痛症を悪化させる危険がある。
ツイストリハブのグリップを持たずに肩甲骨をバックレストに押し当て、少し回旋動作を入れる(関節の両端を固定して正常な関節運動をサポートする)。負荷は0~5kg程度にする。体幹インナーマッスルは筋力が弱いので、3kgでも5秒保持が困難である。

・レッドコードエクササイズへの適用

脊椎伸展筋の強化

手を上げさせると、姿勢保持のために脊椎伸展のインナーマッスル(脊椎周囲筋や腸肋筋)が働くようになる。手を上げて体を少し前に倒すとさらに負荷が上がる。図のようにロープから手を離すとさらに負荷が上がる。

立位でも行えるが、安全のためも座位で行うのが望ましい。ただ、立位より座位のほうが腰への負担は強くなるので、腰痛持ちの方には実施時間を短くするなどの配慮を行う。

脊椎伸展筋に最大負荷

ステップ反応を出すための要領で体を少し前に倒し、倒れそうになる限界のところで粘らせると脊椎伸展筋に最大負荷がかかる。最大負荷による筋トレは1秒保持するだけで効果があると考えられるが、念のため2~3回するようにする。8)
転倒には十分注意する。

体幹の固定性向上

背もたれから体を離した状態で手を素早く動かすと、上肢筋力および体幹の固定性向上の練習になる。体幹インナーマッスルも強化される。良姿勢の保持にもつながる。
10秒以上行うようにする。

お疲れさまでした。
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《 参考文献 》
1) 市橋則明:運動療法学 第2版,文光堂,東京,2014
2) 池田誠著,細田多穂・柳澤健 編:理学療法ハンドブック 改訂第4版,第1巻 理学療法の基礎と評価,協同医書出版社,東京,2010
3) 池田誠著,細田多穂・柳澤健 編:理学療法ハンドブック 改訂第4版,第1巻 理学療法の基礎と評価,協同医書出版社,東京,2010, pp999
4) 池田誠著,細田多穂・柳澤健 編:理学療法ハンドブック 改訂第4版,第1巻 理学療法の基礎と評価,協同医書出版社,東京,2010, pp1000-1002
5) 7) 佐久間香・池添冬芽・小竹里佳・畑中めぐみ・沖西正圭・太田恵・坪山直生・市橋則明:パーキンソン病患者および健常中高齢者における体幹・下肢筋の筋萎縮の違い,第45回日本理学療法学術大会,J-Stage,2010
6) 池田誠著,細田多穂・柳澤健 編:理学療法ハンドブック 改訂第4版,第1巻 理学療法の基礎と評価,協同医書出版社,東京,2010, pp1002
7) 市橋則明:運動療法学 第2版,文光堂,東京,2014, pp86-87
8) 吉尾雅春・奈良勲 : 標準理学療法学 専門分野 運動療法学総論 第2版, 医学書院, 東京, 2008, pp211

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