姿勢観察で立ち位置や介助方法を推測したのち、動作観察でそれらを修正していく。
実際の場面では、真横について判断していくことが多い。
その人の動作を見て、弱点を見抜く観察眼を持つようにするが、身体機能の評価をしないと分からないことも多い。ここでは動作から分かることを列挙していく。
手が届かない
前にある物をつかめないのは、上肢の筋力低下や関節可動域制限も考えられるが、『骨盤後傾位』『体を前に倒すことができない』『上肢固定ができない』などが原因であることもある。
体を前にもっていくために、いつもより少し遠くに物を置いてみるようにする。少し離れたところにある物を取ってもらうよう声かけすることも有効。「○○さん、あれ取って!」と楽しく声かけしてみる。
難しい場合は、机に肘を置いて手を床に滑らせるようにし、負荷を下げるようにする。
手をついて立ち上がる
筋力的には膝伸展筋(大腿四頭筋)や殿筋の筋力低下が考えられる。図のように、膝頭を押さえて立ち上がる場合も同様。これは床反力(作用・反作用の法則)を利用した立ち上がり。
どのような場合でも、手を使って立ち上がるのが見られたら、なんらかの問題(筋力面やバランス面での問題など)があるものと考える。
立ち上がり動作は、大腿四頭筋と大殿筋を主に使っている。直立して立ち上がる際には大腿四頭筋がメインになり、軽くお辞儀をして立ち上がる際には大殿筋がメインになる3)。
深くお辞儀をしての立ち上がりは、反動を利用してお尻を浮かせながら勢いで立ち上がっている。大腿四頭筋と大殿筋の双方の筋力低下が想像される。
大腿四頭筋が弱いと後方重心の立ち上がりになり、立ち上がりに失敗してしまうこともある。前方への重心移動をうながす声かけや介助を行う。
後ろ手に立ち上がる
立ち上がり動作の際に、前方への重心移動が十分に行えないと手で後ろから押して前に体を持っていくようになる。
体を前にもっていく主な筋肉は腹筋と前脛骨筋(すねの筋肉)4)。これらの筋力低下に加えて大腿四頭筋の筋力低下が加わると立ち上がりが困難になる。
また骨盤後傾位でも立ち上がりが後方重心になり、後ろ手に立ち上がりやすい。
麻痺のある方は立ち上がりは後方重心になりがちだし、下肢装具を装着すると前方への重心移動が難しくなる。骨盤後傾位の方も後ろ手に立ち上がることが多い。前方への重心移動を行うほうが力が要らなくて済むので、これを第一に考えるが、安全に立ち上がっているのなら、膝に手をついて立ち上がっても、後ろ手に手をついて立ち上がっても問題ないという考え方もある。
ただし支持物の安全性の確保に十分気を付ける。立ち上がりの際にイスが動いてしまうようなら安全に立ち上がっているとはいえない。足部への荷重をうながす声かけや前方への重心移動を誘発する介助を行う。
麻痺側の膝頭をおさえて荷重を補助する方法も効果的。立ち上がりに必要な筋力が減るし、介助者の介助量も減って安全性が高まる。
立ち上がった後に背すじが伸びない
円背姿勢などの関節可動域制限も考えられるが、脊柱起立筋の筋力低下も考えられる。
背すじを伸ばすように声掛けをするか介助して、立位保持をしっかりと行わせるようにする。末梢神経性の運動麻痺が原因で体を起こせない場合は無理に起こそうとはせず、そのまま体を支えるようにする。
立ち上がり時にふらつく
バランス面での問題があると考えられる。筋力低下が原因のことが多い。図ではふらついた方向と反対の中殿筋の筋力低下が考えられる。
立ち上がる最中と立ち上がった後にふらつくことがある。通常は軽くテーブルに手を置いてバランスを取るなどの対応策を本人のほうで取っている。めまい症や起立性低血圧が起きている可能性もある。
状態を聞いて、必要なら介助に付くようにする。
立ち上がった後しばらく動けない
めまい症や起立性低血圧が起きている可能性が高い。
状態を聞いて、かならず介助に付くようにする。
ドスっと座る
着座動作の際は、大殿筋がメインで大腿四頭筋も使いながら遠心性収縮(筋肉が引き延ばされながら収縮もする)で、ゆっくりと座っている5)。どちらかが弱いとドスっと座る座り方になりやすく、特に大腿四頭筋の筋力低下があると後ろに倒れこむような座り方になる。
腰を痛める原因にもなるので、注意が必要。
ドスッと座る座り方を見たら、『軽くお辞儀をして、つま先のほうに体重を残したままゆっくりと座る』よう声かけする。これで大腿四頭筋と大殿筋にかかる体重が分散されて、ゆっくりと座りやすくなる。
それでも難しい場合は、物を持ってもらうようにする。肘置きが安全につかめるか等の評価も必要。
着座寸前に倒れ込む
大腿四頭筋に若干の筋力低下か、大腿四頭筋の遠心性収縮に問題があると考えられる(あるいはその両方)。殿筋の筋力低下があり、大腿四頭筋では支えきれなくなった場合にも起こり得る。大腿四頭筋をゆっくり伸ばしてゆっくり戻すという筋トレの仕方が効果的。
歩行開始時のふらつき
最初の1〜2歩がふらつく現象。歩き続けるとやがて惰性でバランスが取れるようになる。自転車を漕ぎだすと、最初はふらついていてもすぐにバランスが取れるようになるのと同じような原理。かかる力がつり合うと物体は静止したように見える。
図のように明確にふらつきがみられるのはまれで、通常は「歩き始めがふらつく」等の訴えがあるだけ。歩行バランスに関係する中殿筋の筋力低下があると考えられる。座ったままの生活が長いとこの筋力低下がまず先に起こる。
見守り程度で大丈夫なことが多いが、フレイル(虚弱)の始まりと捉えたほうがいい。
座位保持や立位保持は姿勢保持筋が担当するが、歩行中などでは身体を動かす動作筋でバランスを取らなくてはならない。
歩行時に片足を上げると、上げた方向に体が傾き、足底部を支点とする回転運動(モーメント)が起こる。体が横に倒れないように支えるのが中殿筋である。このモーメントは重力の影響があり、中殿筋が弱いとこのモーメントに抗しきれず、ふらつくようになるが、次の一歩で逆のモーメントがかかると力がつり合って、体幹が静止して見えるようになる。最初の1~2歩だけがふらつく人はこれが起きていると考えられる。
側方動揺
力のつり合いが取れないと歩行開始時のふらつきがずっと続くようになる。酔っぱらいが歩くような状態。腕を広げてバランスを取るようになり、骨盤の左右動揺や踏み直り反応がみられたりする。
中殿筋の筋力低下だけでなく、体幹の固定性も低下していると考えられる。体幹が固定されないと骨盤から出る中殿筋は十分な筋力を発揮できないため、ふらつきが続くようになる。でもバランス能力はそれなりにあるのでバランスは取れたりする。
図のようにふらつきが続くことは少なく、不意にふらつきが現れてくることが多い。
フレイル(虚弱)が起きているものと考える。杖をつくなどの指導を行い、安全化を図る。
体幹動揺
体幹筋の筋力低下があり、体幹の固定性が著しく失われている状態。体幹が固定されていないと、体幹を支点とする四肢・骨盤の運動はバラバラになり、杖のつき方が無茶苦茶だったり、体幹の前後左右へのブレが大きかったり(肩の上下動が大きい)、骨盤の左右動揺がみられたりする。
歩行は転倒リスクが高く、実用的でない。歩行器か歩行車の利用を勧めるようにする。フレイル(虚弱)やサルコペニア(筋肉減少症)を考える。
ワイドベース歩行
肩幅と同じか、それよりも足を広げて歩く。動作的には支持基底面を広げて転倒リスクを下げている状態。
バランスが悪いということなので、少なくとも見守り介助は行うようにする。
支持基底面とは、重心線(体重心から垂直に下した線)がその中にあると転倒しなくなる範囲のこと。バランス能力が高いとは、どのような動きをとってもこの重心線が支持基底面の中央に戻っていくことを言う6)。
杖をついたり歩行車を使用すると、この支持基底面が広がり、より安全に歩けるようになる。
ただし、支持基底面が広ければ広いほど安全という訳ではない。支持基底面を広く取る必要があるほど、その人の転倒リスクが高いことを意味する。動作観察の際の参考にする。
モンキーウォーク
体重心を下におろすことで、回転運動による体重心の支持基底面からの大きな逸脱を防いでいる。
腿上げに腸腰筋でなく股関節内転筋も使って歩くことができるので、腿上げをしない人にも見られる歩き方。
支持基底面から重心線を逸脱させられないので、歩行バランスが悪くなっているという意味がある。
でも安全に歩いているので、転倒リスクは意外に低い。
ロボット歩き
体幹の動きが全くない歩き方。左右に体幹を揺らして足を床から離し、脚を振りだしている。パーキンソン症候群や圧迫骨折等で体幹の動きがなくなってしまった方に見られる歩き方7)。モンキーウォークと違い、手の振りが少なくなる特徴がある。体幹の柔軟な動きがなくなると手が降りづらくなるため。
体を揺らして歩いているのがみられた時点で、歩行バランスが悪いと判断して介助に付くようにする。
つま先歩き
つま先から足をつき、そのまま踵に体重をのせることなく歩き続ける。つま先に体重が乗りすぎるので、前足部が痛みやすく、長距離歩行が行えない。また、つま先が常に下を向いているので、つま先が引っかかりやすく、転倒リスクが思ったより高い。
歩いている時につま先が下を向いているのを見たら、すぐに介助に付くようにする。
すり足歩行
つま先が下を向かないまでも、平行に足を出してしまう歩き方。踵に体重が乗っていることが多く、つま先歩きより転倒リスクが高くない。つま先が引っかかると、腿上げをして脚を振り出しなおす様もみられる。
でも正常歩行とはいえないので介助についたほうがいい。
つま先が下を向いてしまう原因の多くは前かがみであること、そして足首が固くて上を向かないこと。
背すじを伸ばすだけで、つま先が上を向いた状態で足が振り出せるようになるで、声かけとしては「背すじを伸ばして」そして「踵から足をつきましょう」と2段階の声かけをするようにしてみる。
小刻み歩行
パーキンソン病やパーキンソン症候群の方によく見られる歩き方8)。振り出した足が途中で床と接触してしまうため、小刻みな歩行になってしまう。
背すじを伸ばしてもらうと脚の振り出しが良くなることがあるので声かけしてみる。
大抵はつま先からの接地になるため、つま先が引っかかりやすく、転倒リスクが高い。介助に付くようにする。
突進歩行や加速歩行に対しては、肩を押さえて前のめりにならないように介助する方法が効果的。
それでも転倒しそうな場合は、両手引きに切り替える。移乗動作の際にも両手引きは効果的。パーキンソン病は歩き始めと方向転換時の転倒リスクが高いので、片手で物を持ってもらったりはせずに、両手引きのまま、その場で方向転換してもらうようにする。
すくみ足
体ばかりが前に出て、足が前に出なくなる状態。パーキンソン症状のある方によくみられるが、それ以外の方にもみられることがある。
動作的にはつま先に体重が乗りすぎて足を床から離せなくなっている。健常者でも、つま先立ちの状態から片足立ちをしようと思うと大変なので、高齢者ではなおさら。体験してみるとこの大変さがよく分かる。
◎ 運動療法
・マシントレーニングへの適応
大殿筋の筋トレ
立ち上がり・着座には大殿筋が大きな役割を果たす。
大殿筋は股関節90°位から外転方向に等尺性収縮を入れると筋活動量が最大になる12)。そこで背もたれから体を離してグリップを保持するなどして股関節90°位を保持し(足の長い者は図のように背もたれにもたれかかる)、足をペダルの外側に置いて外転方向に蹴ると(少し外側に向かって蹴ると)大殿筋の強化が行える。
中殿筋の筋トレ
歩行バランスに強く関係するのが中殿筋。これを鍛えることができるのは、アブダクションのマシン。遠心性収縮(筋肉が伸ばされながら収縮する)の動きは姿勢保持にも重要な役割を果たすので、ゆっくり開いてゆっくり閉じるように指導する。
アダクションで鍛えられる股関節内転筋群も歩行時には重要な役割を果たすので(荷重応答および脚の前後移動)13)、同時に鍛えるようにする。
踵接地の練習
膝伸展筋(大腿四頭筋)を鍛える際につま先を上げてもらうと、足を振り出す際の踵接地の練習になる。他の動作に合わせて他の動作を同時にする『協働動作』の練習にもなる。2つの同時動作をこなすので、脳トレにもなる。
2つの同時動作が難しい場合は、膝を伸ばした後につま先を上げるように声かけする。
・レッドコードエクササイズへの適応
前方への重心移動の誘発
レッドコードを持つ位置(ハンギングポイント)をサスペンションポイントのかなり後方にもっていくことで、立ち上がり時に必要な前方への重心移動を誘発しやすくなる。
この際、ハンギングポイントをかなり下目にもっていくようにすると、お辞儀動作も同時に誘発される。
立ち上がり時に中腰でストップする
立ち上がり時に中腰でストップし、骨盤を軽く左右に揺らせると中殿筋が鍛えられる。そこから再び立ち上がり動作に戻って立位保持を行わせる。
これは立ち上がり時の横方向へのふらつきに対する強化練習になる。前後方向に動かすと、大殿筋と大腿四頭筋の強化練習になる。
骨盤上下の動きを出す
骨盤の動きを出すと脚の振り出しが良くなるので、エアスタビライザー(クッション)の上で腿上げ練習をする。その際、体幹はまっすぐに保つようにしてもらう。
ただしすくみ足等で脚の振り出しが困難になっている人はクッションの上で腿上げすることも難しいので(体幹コントロールが難しく、体幹を横に倒して代償動作を入れたりする)、クッションは抜くようにする。
お疲れさまでした。
https://michiroujohn.xsrv.jp/yaenosato
《 参考文献 》
1) 市橋則明:運動療法学 第2版,文光堂,東京,2014
2) 池田誠著,細田多穂・柳澤健 編:理学療法ハンドブック 改訂第4版,第1巻 理学療法の基礎と評価,協同医書出版社,東京,2010
3) 江原義弘・山本澄子:ボディダイナミクス入門 立ち上がり動作の分析,医歯薬出版株式会社,東京,2009, pp53
4) 上杉雅之・西守隆 : 動作のメカニズムがよく分かる 実践!動作分析 第2版, 医歯薬出版株式会社, 東京, 2020, pp52-60
5) 江原義弘・山本澄子:ボディダイナミクス入門 立ち上がり動作の分析,医歯薬出版株式会社,東京,2009, pp66-68
6) 上杉雅之・西守隆 : 動作のメカニズムがよく分かる 実践!動作分析 第2版, 医歯薬出版株式会社, 東京, 2020, pp10-12
7) 市橋則明:運動療法学 第2版,文光堂,東京,2014, pp66
8) 市橋則明:運動療法学 第2版,文光堂,東京,2014, pp68
9) 池田誠著,細田多穂・柳澤健 編:理学療法ハンドブック 改訂第4版,第1巻 理学療法の基礎と評価,協同医書出版社,東京,2010, pp1171-1172
10)Kiristen Götz-Neumann著, 月城慶一・山本澄子・江原義弘・盆子原秀三 訳 : 観察による歩行分析 第1版, 株式会社 医学書院, 東京, 2005, pp36
11) 市橋則明:運動療法学 第2版,文光堂,東京,2014, pp360
12) 小栢進也・建内宏重・高島慎吾・市橋則明:関節角度の違いによる股関節周囲筋の発揮筋力の変化, 理学療法学 第38巻 第2号, 日本理学療法学会連合, J-Stage, 2011, pp97-104
13)中村隆一・斎藤宏・長崎浩 著 : 基礎運動学 第6版, 医歯薬出版株式会社, 東京, 2003, pp378-380